2005年 12月 15日
イエスタデイがワンスモアする話
盗んだバイクで走り出す前に捕まった。
「もう何も失うものはない」と思っていたのにひどく後悔した。
ポリスは陽気に言う。
「君―、これ君のバイクじゃないよねー」
困惑する僕に間髪を入れず
「だって僕のバイクだもんねー」
僕はもう何も言わず裏返した両手を差し出した。
「捕まえはするけど、手錠はかけないよ」
ポリスはそう言って笑った。

この次失うものがなくなった時には2tトラックを盗んでやろうと思った。

帰りに花を買って帰った。食卓に花を飾るのが好きな彼女だったのだ。
「贈り物ですか?」店員の問いかけに「あ、はい、そうです、お願いします」
たじろぎ答えた。誰もいない部屋で花を飾るのが空恐ろしかった。

どこか遠くに行きたいな。温泉、温泉がいい。草津、草津。
なるべく思考を遠くへ飛ばし、内にある哀しみに蓋をして歩いた。
雪が降り始めた。寒さが肌に染みて核心に触れようとする。
僕は歩みを速め家路を急いだ。

アパートの階段を昇ると赤いコートが見えた。
体を縮めて凍える彼女は泣いているのか笑っているのか遠目には分からなかった。僕は駈け寄り花束を渡した。薔薇を手にした彼女は確かに笑っていた。
それを見た僕も確かに笑った。泣いていいのか笑っていいのか分からなくなる
気持ちを越えて。部屋の鍵を開ける。一つずつ部屋に明かりを灯す。
僕はストーブを点ける。彼女は手を洗う。
昨日がうそのように笑う。薔薇が水を得て輝く。
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by pyonjet | 2005-12-15 11:07 | [lunchtime column]


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