「セックスしたい」と彼は言う。
それで私は「死体」になって、
ベッドにそっと横になる。
「好きだとか嫌いだとかじゃ付き合えないんだ」
と彼は言う。
私はそのことがもう「どっちでもよく」なってきている。
「どっちでもよい」と言うよりは「どっちでもわるい」
の方に傾こうとしているのかも知れない。
人は皆、なにかを天秤に掛ける。
私は「不幸」よりは「幸せ」を欲しているし、
彼は「貧乏」よりは「贅沢」を欲しているし。
昔はそんな天秤の掛け方が近ければ近い程一緒に上手く暮らせるの
だと思っていたけれど、最近じゃ遠い程上手くいく気もしている。
私は優柔不断なのだ。
彼は時々その事を「ユージュー」と言うけれど
私はそれがとても嫌いで、彼が言う度に言わない様に注意する。
本当に嫌いな事を決めるのは易い。
本当に好きな事を決めるのはそれよりも少し難い。
だけど問題は「どっちでもよい」事がなによりも多いことなのだ。
実際、曖昧な私の返事に、行き場をなくす彼の相槌だって
本当は「ユージュー」だ。
でもそれを彼に言った事は、ない。
私は「機嫌」を天秤に掛ける。
彼は「問題の解決」を天秤に掛ける。
「また、したい」と彼は言う。
そして私は天秤を壊す。
揺れているものが一斉に止まって、
少しずつなにかが近付いて来る。
それは私の中心に入っていって、
そこでなにかが息づく。
呼吸を続けて、大きくなっていく。