この花の名前を知っている人に
私は昔会った事がある。
花の名前は忘れてしまった。
けれど彼女の名前は覚えている。
花子と言う人だった。
「うそだろう」そう思った。
世の中の花子さんの中にも
花子だから花が好き。な人と、
花子だから花が嫌い。な人がいるだろう。
花子さんは花が好きだから花子とついた様な人だった。
赤ちゃんの頃しかめたお顔が花を見るとゆるんだ。
そんな面持ちだった。
花子さんは気持ちの良いくしゃみをする。
くしゃみをした後に決まって「くしゅん」と言う。
その音が、抜けきれないものを全部追い出してしまう。
花子さんはふくよかな人だった。
買い物籠の中には団子が入っていそうな人だった。
花子さんは小路を歩いた。
大通りを避け、わき道に入る。
家と家の間、その脇に咲く花と
しっかりと手入れされた庭を見て歩いた。
私は花の名前を忘れた。
けれど今、彼女のことは覚えている。